遠の音
遠くに落ちる音を、聞いて紡ぐ
2008.11.09
懐かしい夢を見る。
豊かとは呼べない金色が風に揺れ、泣いている。彼を呼ぶ声はどこか遠く、幼い。一心に慕ってくる純粋を、煩わしく思ったこともあった。それでも幼い生命は彼の手の中に委ねられ、それを潰すことなど考えられなかった。
『僕のせい? 僕のせいなの、兄者』
彼とは異なった濃紺の瞳に一杯の涙を溜めて見上げてきた、それを耐え難く逸らした時から彼は偽りしか口にしないと決めたのだ。
「お前の面倒を見るのが嫌になっただけだ」
勝手に一人で生きていけと突き放すのに、幼い生命は彼の足に縋りついてきた。
『兄者、兄者、行かないで。世界を壊したりしないで、僕の側にいて……!』
怖いことはしないでと泣いて縋られた、あの言葉は思い出すたび彼に皮肉な笑みを与える。
「怖いことなど何もない」
何もない。何も。
守りたいと思う存在が日に日に窶れ、託された希望を実らせることもできずに枯らせていくこと以上の怖いことなど、何も。
だから彼は、起ったのだ。愚かと謗られることも受け入れて、ただ毎日を怯えて暮らさずにすむように。
優しくない世界なら、叩き壊せばいい。その後に作られる世界なら、今よりはましなはず。彼が帰る頃には、きっともっとずっとましな世界が広がっていると──。
そう、信じていたこともあった。
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